No.1-011
『乙女と毒盃』23×34cm(顔彩、カラーインク)1996年
娘は静かにその体を横たえた。花という花が、いっせいに咲き乱れた。七色の虫達があちこちの隙間から這い出して、彼女のそばに寄り添った。満ち足りない月が、彼女の最期を照らし出そうと精いっぱいの光を投げかけた。幾千の鳥達が夜空を覆い、森に潜んでいた様々な小動物達が夜の闇に迷いながら彼女のもとへと集まってくるのだった。それでも彼女を囲む世界は、相変わらず重い静寂に支配されていた。
その時、先程のメジロが全力で舞い戻ってきた。一片の氷のかけらを嘴に携えて。その最後の贈り物を彼女のくちびるへ運んでやると、娘はの瞳にかすかな光がさしたかに見えたが、それきりすべてが終わってしまった。
そうしてわれわれの最後の乙女が、この地上から姿を消した。彼女の魂の行方を知るものはいない。
ひょっとすると、今もどこかで、なにかしら美しいものの姿をかりて、世界を輝かせているのかも知れない。けれども、あの美しい娘の姿に会うことはもう二度とないのだ。そのことだけは、確かなことだ。
堀田知恵里.作『最後の乙女』より