私の枕元にはいつも何冊かの本を置いている。その一冊がルソーの『エミール』中巻。この本には有名な「サヴォワの助任司祭の信仰告白」が収めれれている。私は何か悩んだりした時も人に相談したりはしない。人に寄り掛かったりするのが嫌いだし、できるだけ自分の頭の中で物事を解決するようにしている。でもそれでも道に迷ったり、わからなくなったりした時、私はいつもルソーの言葉に自分を照らしてみることにしている。ルソーのことばは、攻撃的で激しくて、矛盾に満ちていて、そして美しい…。哲学と言うよりひとつの芸術だと思う。
以下、私の好きなルソーの言葉の引用……
「私たちは、美しいものへの愛をなくしてしまったら、人生のあらゆる魅力をなくしてしまう。狭い心のなかで、いやしい情念のためにそういう甘美な感情をしめつけられてしまった者、ひたすら自分以外のものには愛を感じなくなってしまう者は、もう感激をおぼえることもなく、凍りついた彼の心は歓びにふるえることもない。快い感動に目をうるませることもない。彼はもう何も楽しむことができない。こういうみじめな人間は、もう何も感じず、生きているとも言えない。彼はもう死んでいるのだ。」
「彼らが嘆いている弱さは、自分でつくり出していることを、彼らの最初の堕落は自分の意志から生じていることを、たえず誘惑に負けることを願っているからこそ、やがて心ならずも誘惑に負け、それを抵抗できないものにしていることを、そういうことがどうして彼らにはわからないのだろう。」
「私は、人間の自由が自分のしたいことにあるなどとは一度も思ったことがない。それはしたくないことを決してしないことにある。」
「未開人はいつも自分自身のなかで生きているのに、社会人はいつも自分の外にあり、他人の意見のなかでしか生きることができない。いわば他人の判断から、自分自身の存在感情を得ているのである。」
「おそらくあなたの味方になるものは一人もいまい。しかしあなたは人々の証言を求めなくてもすむようにしてくれる証言を、あなた自身のうちに持つことになる。人々があなたを愛してくれようと憎もうと、あなたの書いたものを読もうと軽蔑しようと、それはどうでもいいことだ。本当のことを言い、良いことをするのだ。人間にとって大切なことは、この地上における自分の義務を果たすことだ。そして人は自分を忘れている時にこそ、自分のために働いているのだ。」