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Writings

裁かるるジャンヌ

クルスマスの日、本郷中央教会での「聖なる夜の上映会 裁かるるジャンヌ」を観に行ってきました。「裁かるるジャンヌ」は1928年制作のサイレント映画。監督はカール・ドライヤー。映画史上とても評価の高い作品です。

私は今まで未見だったのですが、ジャンヌ・ダルクとして兵を従えて行進するシーンも途中挿入されるのかと思ったら、そういう勇ましい場面は一切なく、閉じられた空間の中での裁判のシーンが延々と続きます。背景には余計なものを一切置かず、殺伐とした無機的な空間の中で、登場人物たちの様々な表情を克明に映し出していくのです。そしてジャンヌ役のファルコネッティが時折見せる恍惚とした表情は、観るものを圧倒します。おそらく「演技」という領域を超えているのでしょう。崇高な信仰心によって導かれる光の世界と、どうしようもなく醜い人間の心の闇。そのコントラストがモノクロームの映像の中に、鮮明に、残酷に、描かれていました。

クライマックスの処刑シーンに至ってもカメラの視線は徹底してクールで、感情移入するドラマティックな映画ではないように私は感じたのですが、周りではすすり泣く声も聞こえたので、クリスチャンの方にはまた違った見方があるのだろうなぁと思ったりもしました。そもそもジャンヌ・ダルクのことを、イギリス人はどう思っているんだろうか?って考えてみたり。信仰のことはさておいて、研ぎすまされた映像美と、作品全体にわたっての何とも言えない緊張感が、強烈に印象に残る作品でした。

この映画に素晴らしい演奏を加えてくれたのは、ピアニストの柳下美恵さんと、映像作家(他、いろいろやってるそうです)のジャン ピエール テンシンさん。柳下さんは数年前からふとしたご縁での知り合いですし、テンシンさんは私の友人の友人で、本郷の古い由緒ある教会、そして「裁かるるジャンヌ」・・・という不思議なつながりのあった今回の上映会。今回こういう形でこの映画を観れたのはとても幸運なことでした。

★柳下美恵さんのホームページ http://www.ltokyo.com/yanasita/miespick.html

映画 Gedo Senki

絶対観ないと決めていたのですが、観てしまいました「映画 ゲド戦記」・・・。

「映画 ゲド戦記」に対して、私は、制作発表の当初からポスターや予告編で見る絵もコピー文も全てに違和感を感じましたし、その後追々知ることになった製作に至った経緯を聞くにつけてうんざりした気分になりました。どう考えてもこれは「ゲド戦記」ではないし、良い作品になるわけがないと思っていました。原作に思い入れの深い一人として、絶対に観る気はなかったのですが、その後いろんな場面でこの作品の是非についての議論されるのを見ていて、だんだん興味が湧いてきたのです。

とにかく作品を実際に見ないことには何も言えないので、いろんな先入観をいったんリセットして(完全には無理ですが)、とにかく見てみようって思ったのです。
で、率直な感想ですが・・・思っていた以上に、作品として内容の悪いものでした。

原作と違うとか、表現が拙いとか、そういう意味でだけダメと言っているわけではないのです。映画と原作が違うのは仕方ないことですし、場合によっては大胆な組み替えをしてオリジナルに近い作品にしてしまう場合だってあるでしょう。でもそれは制作者側に、作品の解釈と表現の意図が明確にあることが大前提だと思います。「映画 ゲド戦記」には、そういったものがまるで感じられません。原作に対する誠意も、まったく見受けられません。そして作品の内容自体に、たくさんの問題がある作品だと思いました。

この映画について、原作者であるアーシュラ・K・ル=グウィンから、自身のHPで公式なコメントが出ています。翻訳のページにもリンク貼ってみますので、ぜひ読んでみてください。
http://hiki.cre.jp/Earthsea/?GedoSenkiAuthorResponse

↓以下、かなり批判的な私の勝手な感想ですので、ご了承ください。

» »【続きを読む 「映画 Gedo Senki」】

ヴィレッジ

B0001.jpg先週wowowで放送された「ヴィレッジ」という映画がちょっと気になって、録画しておいたのをさっき観てみた。ホラー仕立てのサスペンスもの?と思って観てみたら、思っていたより丁寧につくられてる映画で結構面白かった。
予告編では「驚くべき恐ろしい謎がある!」っていうような大げさなフレコミだったけど、そういう話では全然なくて、淡々とした展開と地味なストーリー。謎めいた森のなかで村を営み共同生活する人々。中世の村のような生活スタイルで、ユートピア的な世界をつくり出していたが、人が人を想う気持ちの高まりによってそれがほころび始め・・・・。静かな、けれども心の奥から込み上げてくる、情熱的な愛の物語。賛否両論分かれそうな内容だけど、私は結構気に入った作品でした。

人生で一番大切なもの


大げさなタイトルですみません。映画の話です。
TVでたまたま観て気に入った映画で、「シャーロット・グレイ」という作品があります。第二次世界対戦下のフランスとイギリスを舞台にした物語。カメレオン女優と言われるほど多彩な演技に定評のある、ケイト・ブランシェットがヒロインを演じています。

さて、この作品の中で、英の諜報機関で訓練を受けたヒロインが、最終テストとしての問答試験を受けるのですが、その中で非常に印象に残る…というか、この作品のテーマの中核をなす言葉が出てきます。

試験官の質問:「次の三つのうちで一番大切なものは? 信頼、希望、愛情」

さて、みなさんは何と答えますか? ちなみにこの劇中でヒロインは「希望」と答えていました。その答え方が、作品全般に貫かれていて、クライマックスでのヒロインの行動に私は感銘を受けずにはいられなくて、観終わった後この作品がとても好きになりました。そしてその後すぐに、DVDまで買ってしまいました。

私は映画を観ながら、その「三つのうちで一番大切なもの」という質問のことを、ずっと自分に照らし合わせて考えていました。そして考え至るのは、私にとってのその答えは「信頼」なんだと思うのです。自分が人生に求めるもの、生涯の仕事に求めるもの、愛する人に求めるものは、そういうものに集約される気がします。どの選択が良いとか悪いとか、そういう話ではなくって、たぶん自分はそういう傾向なのでしょう。そう考えると、自分のことがとてもわかりやすい。人が自分の人生に求めるものについて、シンプルな設問の立て方として、「信頼、希望、愛情」という分類は面白いなぁ、と思うのですが。皆さんはどう思いますか?

http://www.uipjapan.com/charlotte/

ジム・ヘンソンの伝説

 

STUDIO VOICEの10月号に「ジム・ヘンソンの伝説」という特集記事が掲載されました。最近はその名前をあげても、あまり反応がないのが残念ですが、ジム・ヘンソンは70〜80年代に活躍した偉大なマペット・クリエイター&映像作家です。私の最も敬愛する作家の一人。80年代に大きな潮流をつくった「SF&ファンタジー」系の映像作品に愛着を持った人なら、ジム・ヘンソンの名前を知らない人はいないでしょう。そのくらいに偉大な、影響力のあるクリエイターでした。単に「偉大な」というのではなくって、彼がつくるファンタジックな映像世界、ユニークなマペットたちは、とにかく魅力に溢れていて、愛さずにはいられない存在だったのです。

ジム・ヘンソンの仕事として、もっとも有名な、誰もが知ってるキャラクターは、「セサミストリート」の愛くるしいマペットたち。そして「スターウォーズ」のヨーダにリアルな動きと特殊撮影の効果を与えたのもジム・ヘンソンの功績。その後も「ダーククリスタル」や「ラビリンス」等の本格的なファンタジー映画、残酷で不可思議なお伽噺を題材にした「ストーリーテラー」など、良質なオリジナル作品を数多く生み出しました。ジム・ヘンソンの作品はたくさんの人を魅了し、愛され、評価を高め、皆が注目し大きな期待を集めていたその矢先・・・彼は突然この世を去ってしまったのでした・・・・。その時の悲しさは、ちょっと言葉になりません。今思い出しても、胸が痛むのです。

ジム・ヘンソンが亡くなって、今年で15年。その後しばらく彼の名前を聞く機会は少なかったのですが、最近にわかにジム・ヘンソンの評価が高まってきたようです。「ダーククリスタル」「ラビリンス」のDVDが再発されたり、雑誌で特集記事が組まれたり。近頃のファンタジーブームが契機となって、ジム・ヘンソンの存在がクローズ・アップされ、彼が遺したダーク・ファンタジーの世界が時代を先駆けた優れた作品であったと評価されるのは、ファンとしてとてもうれしいことです。やっと時代が追いついたのかなぁ、とか思ったり。

今私の中でも、ジム・ヘンソン熱が急上昇中。夜な夜な彼の映像を観て楽しんでます。特殊効果に限って言えば、確かに今の時代から見ると拙い印象は拭えないのだけど、その拙さがまた映像に独自の魅力を添えているようにも感じるのです。CGではとうてい及ばない、手作りのあたたかさと、職人的なこだわりと創意工夫が結実した表現の力強さが、彼の映像からはひしひしと伝わってくるのです。少し思い入れが過ぎるのかもしれませんが。

※「ダーククリスタル」「ストーリーテラー Vol.1&2」は廉価版のDVDが出ています。
※ジム・ヘンソン・カンパニーの手で、現在「ダーククリスタル2」の制作が進行してるそうです。楽しみですね!

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