『魔法遣いに大切なこと』という、TVシリーズのアニメーション作品がある。ふとした機会にこの作品に出会って、それからこの作品のことがとても気にかかるようになった。TVでアニメーションの番組をちゃんと続けて見たのなんて、近頃ほとんどなかったことだけど。
ストーリーは、近い将来‥‥というか、現代の日本。東京の下北沢周辺が舞台。「魔法遣い」というものが架空のものではなく、ひとつの技能として社会的に、法的に位置付けられている社会(その点以外は、私たちの社会とほとんど変わらない)という設定。魔法使いの研修を受けるために、岩手県の遠野から上京してきた女の子のお話。ストーリーや設定は、特別に目新しいものではないのだけど、その描き方や視点の置き方が、かなりクールで現実味があって、また、「魔法」というものの表現の仕方にも独特な解釈が伺えて、とても良くできた作品に仕上がってると思う。
そのシリーズの第1話。主人公のユメという女の子が、上京してきた最初の日、下宿先で宅配ピザを食べながら泣きそうになるシーンがある。そのシーンを見ながら、自分が東京にはじめて出てきた頃のことを思い出して、ぐっと心に込み上げるものがあった。思うに、田舎から東京に出てきた人たちは、皆「魔法遣いの研修生」みたいなものかもしれない。‥‥なんて言い方をすると、東京育ちの方達に不公平か。言い方を代えれば、夢を形にしていく技術を身につけるために、それまで自分が慣れ親しんできた社会とは違う世界へ、あえて飛び込んで行こうとする人たちは、皆「魔法遣い」の予備生のようなものなんじゃないだろうか。それぞれ自分にある可能性を信じて、新しい世界へと踏み出して行くのだ。皆同じせつなさ、もどかしさを抱えながら。
そしてその「もどかしさ」の感触こそが、一人の良き「魔法遣い」となるための、ひとつの条件、欠かせない通過点となるのだと、物語の中で語っていたように思う。「魔法遣い」には程遠い自分だけれど、「魔法遣い」を目指して東京に出てきた頃の気持ちを、忘れないでいたい。