先週、東京フィルムセンターで開催中のFILM DAYS 2014を観に行った折、次の上映までの待ち時間を使って、LIXILギャラリーで開催中の「背守り 子どもの魔よけ 展」を観てきました。
「背守り」とは、子どもの魔よけとして着物の背中に施した飾りのこと。生まれたばかりの命が失われてしまうことが多かった時代、尊い命を守りたいという願いを込めて、産着や祝い着にさまざまな形の飾りを母親が縫い付けたそうです。今ではすっかり忘れ去られていますが、昭和初期まで広く知られた風習でした。
「背守り」のなかで最もポピュラーなものが「糸じるし」。和服の背の縫い目には魔物が入り込む隙を封じ込める意味があったそうですが、子どもの用の小さな服には縫い目がありません。それを擬似的に表現する意図があったと考えられます。いろんなバリエーションがあるようですが、まっすぐ縦に一本と、斜めに1本を加えたものが基本のようで、斜めの方向の「左向き」が男の子と「右向き」が女の子となっていたそうです。
地域や時代、社会階層によって様々な形状のものがあって、このようなピンポイントの刺繍を施すことも多かったようです。いろんなかわいい図柄があって、見ててるだけでとても楽しい。。
更にそこから発展して、「押絵」という立体のアップリケみたいなものを縫い付けることもありました。亀、風車、そしてコウモリの押絵。なんともユニークな造形で、もはや「背守り」という用途をはみ出しているような。。個性を競うひとつのファッションへと高まっていったようにも感じます。
そもそもなぜ「背」なのか、という素朴な疑問も湧いてきますが、展示してあった解説文の考察が深くとても読み応えありました。「背」は、私たちにとって「うしろ」の世界。「うしろ」の世界とは、悪霊や鬼が、自然界の様々な霊が行き交う世界。つまり、現世のこちらの世界と、あちら側の世界とが「背」を挟んで表裏一体にあるものと考えられていたのです。そこには、日本古来からの土着的な宗教観が根底に息づいているのでしょう。確かに、黄昏時の田舎道とか歩いていると、振り返るのが怖くなる瞬間ってありますよね。。
「背守り」の文様を集めた「背紋帖」。様々なバリエーションが記録されています。
会場では「背守り」意外にも、子どもの衣装に関連した小物なども展示されていました。これは「迷子札」と呼ばれるもの。裏面には名前や住所などを書き込むようになっています。子どもの帯などに結びつけていたのでしょう。
これは「百徳着物」という、たくさんの端切れをつなぎ合わせて作られた着物。「子育ちのよい家や長寿の年寄りから端切れをもらい、百枚を綴って子どもに着せると丈夫に育つという風習」があったそうです。一見バラバラな文様の生地たちが絶妙なバランスで組み合わされ、美しい色彩のリズムを奏でているようです。見れば見るほどじんわりとあたたかな魅力がにじみ出してきます。
「背守り」も「百徳着物」も、その実物を目の当たりにすると、その創意工夫と手間のかかる手仕事の素晴しさに心うたれます。愛する我が子が健やかに育ちますようにと、そのひと針ひと針に、母の気持ちが込められているのでしょう。着古した着物はほころんでも、そこに込められた愛情の深さはけっして色あせることなく、今もひしひしと伝わってくるのです。今では失われつつある文化ですが、この美しい手仕事の伝統を、何かの形で未来にも引き継いで行けたら・・・と切に感じました。
「背守り 子どもの魔よけ 展」は、京橋のLIXILギャラリーで8/23まで開催。素晴しい展示ですのでぜひ。石内都さんの写真展「-幼き衣へ-」も見応えあります。
http://www1.lixil.co.jp/gallery/exhibition/detail/d_002767.html