慈光院から飛鳥へ向かう途中、少し足を伸ばして當麻寺へ寄り道してみました。思いつきで行ってみたのだけど、これがびっくりするくらいに素敵なお寺だったのです。
この日は朝からずっと雨模様。でも當麻寺へ着く頃にはいつの間にか雨は上がり、空が明るくなっていました。拝観終了の時間が迫っていたので、急いで階段を駆け上がり東大門から一歩足を踏み入れると・・・そこは、さっきまでとは違う世界に飛び込んでしまったようでした。
境内を囲む山々には雨上がりの白いもやがかかり、幻想的に浮かび上がる二上山。そして雲の切れ間から落日が斜めに差し込んできて、御堂の屋根を神々しく照らし出しました。その時の「ぞくっ」とするような空気感は特別なものでした。今回の旅の中で、その時の体験が私にとって一番印象深い出来事になっています。
當麻寺は、中将姫にゆかりの深い寺。中将姫が一夜で織り上げたという「蓮糸大曼陀羅」や、天平時代の塔、白鳳時代の弥勒仏像、日本最古の梵鐘や石燈籠などが有名。国宝・重要文化財も数多く所有していますが、その割には知名度が今ひとつな印象...。正直な話、私もつい最近まで知らずにいました。
後で知ったのですが、當麻寺は今年1月にJR東海のCMで紹介されて、最近になって急に注目が高まったそうです。。「いま、ふたたびの奈良へ」というフレーズが印象的なCM。私も見た記憶があるのですが、ここのことはまったく知らずに来てしまったのでした。。
★このCM→http://youtu.be/z3zaOpltxvw
「中之坊」という僧院には、中将姫の守り本尊である「導き観音」がご本尊として祀られています。この尊像は女人救済の信仰を集めているそうで、良縁、安産、子授けなどの祈願にここを訪れる人が多いそうです。
その中之坊にある「香藕園」。大和三名園の一つとして名高い庭園です。
境内と周りの山々が一体となった美しさに、私は大変な感銘を受けましたが、この日は拝観できる時間がほんの少ししかなくて残念でした・・・。貴重な名宝の数々には出会い損ねましたが、それはまた次の楽しみに。
駅からまっすぐのびる参道には古民家が建ち並び、のどかな情緒があります。
帰りの道すがら、店頭で見かけた「けはや餅」が美味しそうで、つい立ち止まってしまったお土産屋さん。どうぞお茶でも・・・と声をかけてくれたので、中に入って休憩させていただきました。店主はとても楽しい方で、當麻についての興味深い話をいろいろ聞かせてくれました。
奈良盆地を挟んで東端にあるのが三輪山。一方で、西の端にあるのが二上山。古代大和の人々にとって、生まれいづる世界の象徴が三輪山であるのに対し、二子山の向こう側は魂が返っていく場所、「あの世」の世界=異界と考えられたそうです。そんな世界観を聞いて妙に納得してしまう程に、當麻という土地は、今も特別な気配を宿しているように感じます。
ふと脇道に入ってみたら、郷愁を誘うのどかな田園風景が広がっていました。写真集で見るような美しい景観ではないのだけど、これこそが「万葉の風景」なのではないかと、ふとそんな風に感じたのでした。思い入れが過ぎるのかもしれませんが。。。私はすっかり當麻の風土が気に入ってしまったのです。