新井薬師の商店街に、「韓国伝統菓子 ライ麦くるみ饅頭 ホミル」というお店ができていた。以前から気になっていたので通りがかりのついでに買ってみた。くるみを型どった、小ぶりで可愛らしい饅頭。とても素朴な味で、餡の甘さは控えめ。クルミの食感がアクセントになってると思う。
お菓子に添えられていた能書きに、「くるみ饅頭は70年の歴史を持つ韓国の伝統的なお菓子であり、現在でも老若男女誰もが愛する韓国の伝統的なオヤツです。昔は線路に沿って遠く満州においても販売され、当時は日本の方々にもよく食べられるオヤツでした」と書いてあった。
私の父は幼い頃、開拓移民時代の満州で過ごした。当時の満州の街並は都会的な繁栄があって、何不自由ない生活だったのだけど、戦争が始まり命からがら身一つで逃げ帰って来たのだそうだ。帰国する船に乗るため、幼い弟を背負い、妹の手を引き、祖母と一緒に何日もかけて死ぬような思いで歩いたのだと、当時のことを感慨深く話してくれたことがある。その後は、鳥取の親戚の家に身を寄せ、狭い部屋を間借りしながら大変な苦労して生活した。まだ小学生の少年にとって、辺境の田舎での暮らしに馴染むのも大変だったろう。祖父は戦争で亡くなり、家族の財産と言えば小さな畑と1頭の雌牛。その牛を、父は大事に世話し続けた。しかし、その牛も手離さなければならなくなったとき、父は最後に牛の体を洗ってやりながら泣いてしまったそうだ。
とても素朴な味のくるみ饅頭を食べながら、ふと、そんな父の生い立ちを思い出した。父は、くるみ饅頭を食べただろうか? 今度父に会うときは、このオヤツを手みやげに、昔のお思い出話をもう一度聞いてみたいな。