「こもれび de 安房直子朗読館」に行ってきました

一週間経ってしまいましたが、先週の日曜、「こもれび de 安房直子朗読館」の公演に行ってきました。両親の見送りをしてから会場に着いたのが1時間の遅れ。すでに2つのプログムが終わってしまっていました(北原さんの朗読が聞けなかったのが残念…)
 

会場に入ってみてまずびっくり。ドアを開けたすぐ目の前にも人が立っていて、大きな会場なのに15〜20人くらい立ち見の人がいたでしょうか。超満員でした。

「きつねの窓」の朗読が始まっていました。朗読者は山崎よし子さん。朗読の経験が豊富な方なのだろうなぁと感じされる、しっかりとした語り口で情景豊かに物語の世界を広げてくれました。演出はすごく控えめで、音楽などは使わず、舞台演出的な効果は照明のみ。ただ、両手に、ききょう色の青い手袋をしていました。その手袋がきつねの染める青い指を連想させてくれるのです。朗読はあくまでシンプルに語り手に徹して・・・というスタンスなのだと感じました。ところが、きつねが青く染めた指で窓を作るシーン、山崎さんはおもむろにその青い手を頭上にかざし、窓を作る動作をするではありませんか。ちょっとびっくりしました。とても効果的な演出だったと思います。
 

次は近江竹生の朗読による「空にうかんだエレベーター」。私がはじめて「安房直子朗読館」に行ったときの演目のひとつがこの作品でした。はじめて安房さんの作品に接したときの感動を思い返して、竹生さんの語りが始まった途端、なんだか妙に興奮してしまったのでした(笑)。安房さんの作品は、優しさに満ちた心あたたまる話がある一方で、人間の心の内にある闇の部分や、寂しさや悲しさ、損失感、人生の不合理な場面を見据えた話も数多くあります。この「空にうかんだエレベーター」は前者の方で、本当に優しい気持ちになれる可愛らしい物語。

この物語にはともちゃんという女の子が登場するのですが、その子が本当にいたとしら、きっとこんな声だろうなって思わせるほど竹生の語り口がすごくあっていて素敵でした。歌の場面での音楽(作曲はTOMOFUMInさん)も、作品の世界にぴったりあっていて素晴らしいです。今回再演を聞いてみて、ますますそう思いました。
 

最後の演目は「花豆の煮えるまで」。朗読は沢柳廸子さん。この作品、私はまだ読んだことのなかった作品でした。山のふもとの旅館の娘、小夜にはお母さんがいない。お母さんは山んばの娘で、小夜が生まれて間もなくして山に帰ってしまった。でも、どうして山んば娘と父さんが出会い、結婚して自分が生まれたのか、小夜はどうしても知りたくて、おばあさんにせがんで聞くのです。すると、おばあさんは「花豆を煮えるまで・・・」と言って、お父さんとお母さんの出会いを話し始めるのでした・・・という物語。この話はおばあさんが小夜に語って聞かせている言葉で綴られていて、その語りを私たちも一緒に聞いているという構造になっています。沢柳廸子さんの朗読の語り口は、まさにそのおばあさんの語り口そのままになっていて、朗読が進むにつれ、物語の世界にすっかり引き込まれてしまうのでした。素晴らしい語り手であったと思います。

物語自体もとても魅力的な作品でした。山んばの娘の描き方が本当に素敵で、そんな娘なら、私が同じ場面に立ち会っても迷わず嫁に迎えるだろうなぁって、思ったのでした。今度あらてめて作品を読んでみたいです。

公演終了後、出演者の方が勢揃い。安房直子作品への深い想いを込めて、皆さんが気持ちのこもった舞台挨拶をしてくださいました。