二日目もこれ以上にない、快晴の青空が広がりました。
午前中に宿を出て、再び金沢へ。
その前に、旧富来町の病院にある粟津潔作の銅像を見に行ったりしました。前回の記事に書き忘れましたが、旧富来町は粟津さんの父親の実家があったところなのだそうです。その縁の地で、いろんな偶然と経緯の中で、あのような歴史に残るライブイベントをやることになったのだから、人のつながりや地縁というものは、本当に不思議なものだなぁって思いました。
お昼過ぎに、再び香林坊まで戻ってきました。そして「金沢21世紀美術館」に到着。ずっと前から行きたいと思っていた「21世紀美術館」、そしてそこで「粟津潔展」を観られるなんて! 会期ギリギリになってしまったけど、なんとか間に合って本当にうれしかった。と、その前にまずは腹ごしらえ。
金沢市役所裏に流れる川と、近所のお店で食べた「カニ味噌手打ちパスタ」。
美術館は入り口付近からたくさんの入場者で賑わっていました。展示の様子を許可いただいて撮影させてもらったので、ちょっとだけご紹介します(画像の転載はしないでくださいね)。
今回の『荒野のグラフィズム:粟津潔展』は、21世紀美術館所蔵の約2600点の粟津潔作品コレクションから、1500点という膨大な点数の作品が展示されました。2年前に、東京文京区の「印刷博物館」でも『粟津潔展 EXPOSE '06』(→その時の記事)が開催されたのですが、今回はそれよりはるかに大きな規模の展覧会。まず展示室に一歩足を踏み入れて、壁面いっぱいに展示された作品数と、そのスケールに圧倒されました・・・。目眩がするような気分で、しばらく呆然と作品を見上げてしまいました。
粟津潔さんの代表的な作品は、今まで何度も観ているにもかかわらず、その膨大な作品を一同に介して向き合ったときに感触は、何とも表現しようのない、特別なものでした。うまく言えないのですが、それら作品群が制作されたときの作者の激しい情念と、時代の空気のようなものが、垣間見られたような気がしたのです。
これは、1977年のサンパウロ・ピエンナーレに出品した代表作《グラフィズム》の再現。個別の作品を「観る」というより、部屋全体から発せられるものを「体験する」作品だと思います。一人の女の子が黒い色面のキャンバスの前で、長い時間立ち尽くしていました。
私が一番長くいた部屋は、このポスター作品を集めた展示室。なんという作品数なんでしょう・・・。そしてその一枚一枚が宣伝美術である機能性や目的を越えて、表現としての存在感を力強く発揮しているのです。印刷・デザインの仕事に携わっている側の人間の一人としてこれらの作品に向き合ってみると、そのどれもが大変な技術と労力を費やしているのが想像されます。用紙の選び方から、製版の仕方、印刷工程まで、今では考えられないような手間と創意工夫が秘められてるのではないでしょうか。その制作過程の現場を想像すると、正直ぞっとすると同時に、たまらなくわくわくする気持ちが込み上げてきます。どんなに大変なことがあっても、そこに関わった人たちはきっと、その時点の技術レベルを超えて、自分の能力をも超えて仕事したのでしょう。制作過程でのイレギュラーな出来事さえも包み込んで、作品に昇華してしまう力強い・・・というか、恐ろしい執念のようなものが、粟津潔さんの作品の奥に横たわっているように感じました。
展示室はいくつかのテーマで分かれていて、多ジャンルに渡る仕事を手がけてきた粟津潔という作家を、多元的に多面的に掘り下げていたのが、とても良かったと思います。年代別に作品を展示するより、作品の本質を垣間見れる切り口になっていたと思う。
そして写真作品を集めた部屋もすごく良かった。日常的な場面の中にノスタルジックな情感を喚起させる画を見いだしていたり、当たり前の景色のはずなのに、こんな場面の切り取り方ができるのかと、驚かされたり。あ〜、粟津潔さんの写真を集めた本が欲しい。
中庭にディスプレイされていたのは、粟津さんの作品の象徴ともいえる「ウミガメ」。明るい日差しに照らされて、気持ち良さそうでした。
21世紀美術館はとても天井が高くて、展示室も広々としていて、ゆったりとした気分で作品を楽しむことができます。ガラスを外壁にたくさん使っているので、日中は外光が入って明るく、美術館特有の閉塞した感じがありません。
「粟津潔展」を観るだけで、かなりのエネルギーを使ったので、常設展はほとんど観ないで終わりました。なので、21世紀美術館のその他の展示についてはあまりコメントできないのですが、美術館全体としての展示のレベル・質は非常に高く、本当に素晴らしい美術館だと私は思いました。閉館後も自由に入れるフリースペースや、ライブラリー、市民ギャラリー、託児室もあったりして、観光客以上に市民の来館者を大切にしてる姿勢を強く感じました。高い評価を受けている美術館であることを、今回実際に足を運んでみて、充分に納得したのでした。
これは例の有名なプール。上からと下から。家族連れの人たちは喜んでました。
2005年にフィルムアート社から刊行された、「粟津潔 デザインする言葉」の本文DTPの制作を、私もお手伝いさせていただきました。素晴らしい内容の本ですので、ものをつくる仕事をしてる方、ぜひ手にとってみてください。
その本の中の一文———。
「私たちの未来に執念がほしいのです。可能性を無限にふくんだ歓喜に満ちた空白の時代、そこにわれわれは住んでいます。」
★粟津潔 オフィシャルサイト Kiyoshi Awazu.com
http://www.kiyoshiawazu.com
(つづく)※次がラストです
火夫
粟津潔さんの仕事は私も大好きです。
21世紀美術館も行ってみたい美術館のベスト5に入っています。
ピアノ炎上も見た横山さんが正直うらやましい!
ピアノ炎上は、前に私が見た塩田千春さんの焼け焦げたピアノが無数の椅子と糸でつながれた作品をなにか彷彿させます。
素敵な日記をありがとうございます。
火夫
れいほー
不覚にも亀さんも粟津作品だと
気がつきませんでした...。
よこやま
>火夫さん
展覧会もピアノ炎上も、本当に素晴らしかったですよ。
普段は腰が重くって面倒くさがりなので、普段は遠出する機会が少ないのですが、今回は思いきって行ってみて、本当に良かったです。
粟津さんの映画や演劇のポスター、素晴らしいですよね。火夫さんは70年代に、こういうポスターを街中でリアルタイムでご覧になってたんですよね?私もそういう場面に立ち合いたかったなぁ。
よこやま
>れいほーさん
亀も作品ですよー(笑)
中庭に老いてあったから、雪に埋もれてたわけじゃないですよね?