昨日、「安房直子朗読館その4 〜初雪のふる日〜 」という公演に行ってきました。
安房直子(1943−1993)さんは、「きつねの窓」「鳥」「雪窓」「青い花」などを作品を著した童話作家。私はお名前だけは知っていたのですが、今までちゃんと作品を読んだことありませんでした。今回とても良い機会だったので、会場となる柏市まで出かけてみました。
今回の朗読作品は「初雪のふる日 」「空にうかんだエレベーター」の二編。最初は安房直子さんのエッセイの朗読から始まりました。「好きな絵本ふたつ」というエッセイなのですが、耳を傾けるうちに安房直子さんの文章の心地よいリズムに、さっと、引き込まれてしまいました。そのあたたかさ・・・と言ってしまえば月並みな表現になってしまうのですが、読む人をワクワクさせるような、何とも言えないあたたかさが文章全体に溢れているのです。近江竹生 の朗読も素晴らしくて、気持ちよくその作品世界に入っていくことができました。
◆「初雪のふる日 」は、ちょっと怖くてシュールな物語。石けりをして遊んでいた少女がいつの間にか雪うさぎたちの行列に巻き込まれてしまい・・・。「片足、両足、とんとんとん・・・」の歌とともに、はてしなく雪の行進を続けるうさぎたち。その無表情で淀みない歩みは恐ろしく、そこから出たいのにどうしても抜け出せない女の子。物語が進むうちに、なんとも切ない気持ちになってきます。知らない街で迷子になった時、こんな気持ちだったような。
そして場面場面の情景の描写が、とても細やかで美しいのです。赤いセーターを着た女の子。大勢の真っ白な兎たち。辺り一面に降り積もる雪。どんよりとした寒々しい空・・・なんとまぁ魅力的な色彩の世界なんでしょう。ヴィジュアルなイメージがとても豊かで、絵にしてみたい場面がたくさんあったり。ファンタジーではあるのですが、フワフワして甘ったるいばかりのファンタジーとは明らかに違っていて、しっかりと世界観が描かれているのです。
春の訪れを感じさせる場面では、本当に胸が高まりました。子供の頃、季節の移り変わりにワクワクしていた気持ちを、思い起こさせてくれるようでした。ちいさな葉っぱ一つにも、たくさんの不思議さや驚きが詰まってる・・・そのことにはじめて気づいたときの、誰もが知ってたはずのちいさな感動が、この作品の根っこにあるのではないでしょうか。本当に素晴らしい作品。私はこの物語が大好きになりました。
◆「空にうかんだエレベーター」は、ほのぼのとした、心あたたまる物語。ショーウィンドーの中のうさぎのぬいぐるみを、ガラス越しに毎日じっとみつめてる女の子。女の子はそのうさぎのことが大好きなのです。声にならない声で「うさぎさん、うさぎさん・・・」と話しかけるのでした。そしてある満月の夜、うさぎはショーウィンドーから抜け出して・・・。ストーリー自体よりも、そのディテールの描き方に創意が満ちていて、あり得ないはずの光景が奇妙な説得力を持って目に浮かんできます。そしてその女の子とうさぎのことを愛さずにはいられなくなってしまうのです。この物語には繰り返し歌が挿入されるのですが、その曲は今回の公演のために朗読館の方々が独自に制作されたそうです(ピアニストのTOMOFUMInさんが作曲されました)。その曲が作品世界とよく合っていて、物語の表情をいっそう豊かにしてくれました。
朗読会というものに、私は今まであまり行ったことはなかったのですが、今回の公演は本当に楽しい体験でした。そして安房直子の作品世界にすっかり魅了されてしまいました。こういう優れた作品に接すると、「人間の想像力、その飛翔力って、なんて素晴らしいんだろう!」と、あらためてそんなことを感じるのです。
(私の大好きな坂口尚さんの作品世界とも、重なるものを感じました。「夏休み」や「無限風船」などのファンタジー作品と。朗読を聞いてる途中から、自分の頭の中では坂口さんの絵とコマ割りで物語が進行していきました・・・)
安房直子さんの作品は、少し前まで絶版のものが多く、読みたくても読めない状況だったそうですが、2004年に『安房直子コレクション』(全7巻)が偕成社から復刻されて今では手軽に読むことできるそうです。 どこの図書館でも、たいてい置いてあるそうなので。こんなにも素晴らしい作品なのですから、もっとたくさんの方に知ってもらいと、私も切に感じました。皆さんもぜひ読んでみてください。「安房直子朗読館」は今後も公演活動続けていくそうなので、機会ありましたらぜひ一度足を運んでみてくださいね。また次の公演のご案内いただいたら、ここでもご案内したいと思います。
火夫
jamsandさん、わざわざ柏までありがとうございました。
気に入ってもらえて何よりです。
安房直子さんの作品は本当に、想像力を本当にかきたてるものばかりで、安房さんの作品に出会えたからこそ朗読という表現に取り組むきっかけになりました。
作品は、本になっていないものも多く膨大な量があります。「花豆の会」というところで雑誌だけに出ていたものなど未発表も含めて読む機会があるのですが、どれも本当に素晴らしいものです。何故こんなにも素晴らしい作家があんまり認知されていないのか、不思議でなりません。
でも私自身もこんなに好きになったのは最近ですから。
高校の時、やなせたかしさんが創刊した「詩とメルヘン」に安房直子さんと味戸ケイコさんというコンビでよく載っていましたが、当時創刊からこの雑誌を買っていたにもかかわらず安房直子さんのよさに気が付きませんでした。でもずっと安房直子さんという名前だけは記憶に残っていました。いま一緒に安房直子朗読館をやっている近江さんがその作品を朗読し、それを聞いた時なんと不思議で現代的で素晴らしい作家だろうと思い何十年ぶりかで再発見しました。
子供のとき読んで覚えている人も多いと思います。その人は大人になったとき本当にその作品を良さを再発見するのではないでしょうか。そういう人生の重みが作品の美しさの底にしっかりとあります。生きていく苦しさ、人生の理不尽さが作品の中にしっかりとあるので何度読んでもそのよさが失われることがありません。
色鮮やかで、透明で、美しいのに苦しく切ない、民話のような世界もあれば無国籍のファンタジーもある。昔の話なのに現代的、こんな作家が他にいるでしょうか?
べたぼめですが、もっともっと評価されるべき作家だとほんとに思います。
私は全ての作品を朗読公演したい!
そう思います。
ちなみにえぬガールさん、「きつねの窓」も二度やりました。
切ない話でまた機会があればやりたいと思います。
jamsandさん、長くなりましたが今度ぜひ飲みながら語らいましょう。
御来場ありがとうございました。
安房直子朗読館演出
鈴木火夫
なを
か…柏で演ってたのですか!?(超地元…)
そんな日に限って、新宿だの都心に出ていた私です。ちょっと悔しいなぁ。
安房直子さん、お名前だけは存じておりましたが作品を読んだことがありません。是非、読んでみたいなぁ、と思いました。
友人に役者(売れてるとか売れてないとかは問わずに)が沢山いるのですが、朗読公演、童話はとても難しいと感じていました。その難しい素材でjamsandさんにさまざまな光景を魅せてくれたその舞台、ほんとに見たかったです。
ちょっとずれますけど、坂口尚氏にしろ安房直子氏にしろ、素敵な作品は、ちゃんと読み続ける人達がおられるのですね。なんか嬉しい。
まずは読んでみますね!
きっかけをくださったことに先に御礼!ありがとうございました♪
よこやま
>ミトンさん
火夫さんの朗読会、やっと行ってきました。すごく良かったですよ。
ミトンさんがつないでくれたご縁ですよね。本当に感謝です!
ミトンさんも安房直子さんの作品、ずっと好きだったんですね。
可愛らしい話と思いきや、ちょっとぞっとするくらい、怖い一面があったりしますよね。
光と影が、作品の世界に中に描かれてるんだと思います。
海外でも翻訳されるともっと評価高まると思うんですけどね。
本当に、希有な才能持った作家だと思います。
「日暮れのラッパ」、記憶しておきますね。
火夫
ミトンさんこんにちは
安房直子朗読館、ミトンさんにも是非見てもらいたいです。
私は、もっともっと多くの人に見てもらいたいと思っています。
そしてほんとうに安房直子さんの素晴らしさを知ってもらいたいと切に願っています。
そのためにも、安房直子朗読館でもっとたくさんの作品をレパートリーとし、日本中を公演できたらなあと。
やりたい作品は、それこそ膨大にあります。
「火影の夢」や「三日月村の黒猫」のような長編、
「星のこおる夜」や「秘密の発電所」のようなちょっと不思議で可愛らしい掌編、ホラータッチの「谷間の宿」などなど様々な作風の作品があるので、次回作を決めるのが大変です。でも幸福な大変さです。
皆さんの応援を糧にまた前に進みます。
安房直子朗読館演出
鈴木火夫
竹生
はじめまして♪ 安房直子朗読館で朗読をした近江竹生です。
この度は、ご来場ありがとうございました。
また心のこもった感想そして鋭い分析…ありがとうございました。
全集には含まれていない作品で、個人的に好きな作品はまだまだたくさんあります。(やはり版権の関係なのでしょうか…)。
次回公演で予定している作品は、全集には含まれていない名作です(まだ予定なので秘密です^^)。 でもこれはきっと横山さんも好きなとても世界感のある作品だと思いますので楽しみにしてくださいね!
マッチ箱、可愛いですね~!知っていたら是非行きたかったです。
私が若い頃は喫茶店に必ずオリジナルマッチがあり、そんなマッチ箱を集めていた時期があります。
引越の度に処分して今では10個もありませんが、みんな味わいのあるとても素敵なデザインでした。 今では捨てて後悔してますっ。
とても素敵なブログですね。
また是非遊びにきます!
よこやま
>竹生さん
コメントありがとうございます! びっくりしました。
先日の朗読会、本当に楽しませていただきました。竹生さんの朗読も、本当に素晴らしかったです。安房直子さんの文章のリズムを、とてもうまく朗読に生かしていたと思います。竹生さんの朗読だったからこそ、始めて触れた安房直子さんの世界に、私もすっと入り込めたのでしょう。
もう次回公演の準備が始まってるのですね。とても楽しみです!
公演の案内いただいたら、微力ながら、ここでも宣伝させていただきますね。
ぜひ、たくさんの人に参加していただきたいと、私も思うので。
取るに足らないことばかりつづってるブログですが、またぶらりと遊びいらしてください。
これからもどうかよろしくお願いします!
竹生
恐れ多いお言葉ありがとうございます。恐縮ですっ…。
横山さんのブログは私自身「そうだ、そうだ」と身近に感じることばかりで大変興味深いです。(特にヴィスコンティ作品のフライヤーの欄に書いてあった「お客様によって自分が支えてもらっている…」などの言葉は自分の言葉ではないかと思ったほどです)
私は「温故知新」という言葉が好きですが、横山さんにもそれを感じます。例えば「朗読」も古い形ですと一部のファンだけで、なかなか誰にでも受け入れてもらえない退屈?さがありますが、安房直子朗読館ではできるだけそれを感じないような試みを心がけています。
まだまだ未熟ですが、夢だけはいっぱいの「安房直子朗読館」、こちらこそ今後ともよろしくお願いいたします。
今後は違うコメント欄でも出没させていただきます!