恋いこがれる〜ルネサンス・バロック音楽の調べ

友人に案内いただいて、一昨日コンサートに行ってきました。
「恋いこがれる。」
〜ルネサンス・バロック音楽で綴る イタリアの愛 フランスの雅 スペインの舞〜
リュート奏者・井上周子とテノール歌手・長尾譲によるコンサート。

10299457_102.jpg400〜500年前のヨーロッパの音色に酔いしれました。私はリュートの生演奏を間近で見るのがはじめてで、もうそれだけで興奮。井上さんの情感のこもった、それでいて抑制の利いたリュートの美しい音色にうっとりしましたし、長尾譲さんのテノールの声質も素晴らしかったです。プロフィールを見ると、どちらかというとバロックの唱法の方が専門なのかと思うのですが、私は前半の中世風な曲の、少しこもった声の感じ(?)の唱い方がとても魅力的に聞こえました。

演奏の曲目は2部構成になっていて、前半は15世紀末から16世紀にかけてのルネサンス期の音楽、後半は16世紀〜17世紀のバロック音楽となっていました。中世の舞曲風なかわいらしい曲から、オペラの原型を感じさせる高揚感に満ちた曲まであって、とても工夫されたセンスの良い選曲でした。時代や国によって曲の表情は様々で、演奏の仕方や歌唱の方法にも明らかな違いがあって、その変遷を垣間みられてとても楽しかったです。

私は音楽を系統立って聞いてないので、漠然と「古楽っぽいものが好き」と思ってるだけなのですが、今回のコンサートでルネサンス〜バロックの曲をいろいろ聞いてみて、自分が特に好きに思うのはどうやら中世〜ルネサンス期の時代に当たるのだなって確認することが出来ました。自分が良いと思う音楽の基準は「想像力をかきたてるかどうか」という、その1点に尽きます。ですので、時代区分もジャンル分けも本来はあまり意味のないことです。ただ、私にとってはクラシックと呼ばれるものにどうしても興味が湧かなくて、古楽と呼ばれてるものには不思議な魅力を感じてしまって、その理由や境界線がどこにあるのかを知りたいと、ずっと思っていたのです。それが自分なりにちょっと理解できてうれしかったです。

古楽を聞いていると、どこか別の世界に自分を連れて行ってくれるような、不思議な感覚を呼び起こされます。その浮遊感、高揚感は、60年代サイケロックやアシッドフォークの“トリップ感”に通じるものを感じます。個人の内面的な行為と音楽との結びつきがとても強いように思うのです。一方で18世紀以降のクラシックを中心とした西洋音楽は、ステージ上の演奏者と観客との間に距離があるのが前提なようで、音楽は「鑑賞される」ものとして高い棚の上に置かれてしまった印象です。もちろんどちらが良い悪いの話ではなくて。その時代毎に、音楽が担う役割が変化していったのでしょう。そうした流れの継承と反発の系譜で、現代の音楽を見渡してみると面白いですよね。

最近ずっと忙しくてくたびれてましたが、ひさしぶりに文化的(笑)なことに触れられて、心にたくさん栄養もらえました。会場となった、新宿オペラシティの近江楽堂はこじんまりとした空間ですが、音の響きが良くて、今回の演奏にすごく合ってました。観客の皆さんはかなり聞き込んでる感じの方が多くって、著名なプロの演奏家の方もいらっしゃったようです。私なんか場違いでは?と、ちょっと恐縮してしまいましたよ。でも本当に素晴らしいコンサートだったのでもっといろんな人に、特に若い年代の方に、もっと聞いて欲しいなぁって思ったりもしました。

古楽がこれからもっと人気出るといいのですが。古楽が大ブレークして、CDショップでは古楽のスペースがヒップポップをしのぎ、ライブハウスでは古楽ユニットの演奏が大人気で会場はいつも超満員、電車で隣の人のipodから漏れ聞こえる音色は古楽ばかり! なんていう時代は・・・来るわけないか〜(笑)。せめてもうちょっと、古楽を身近に聞ける環境に、なってくれるといいですよね。

写真は近江楽堂の天井(笑)。演奏中に写真撮るわけにいかなかったので。